192人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
「というわけで、日向とお付き合いすることになりました」
出勤時、葵に偶然会ったので理人さんのことも含めて簡単に報告した。
「いやいやいやいや、ということでって、どういうこと?!」
混乱する葵に「だから、さっき説明した通りのこと」と言い、赤信号で足を止める。
「てことは、伝えたかったことって、ペン返してくださいってこと?!
かえってきてほしかったのって、ペンのことなの?!」
「うん。ペン返してくださいとか、ケチだと思われたら嫌だなって思うとなかなか言えなくて」
「それはそうだけど」
どこか腑に落ちない表情をしているが、私はさらに続けた。
「それに、そのペンお兄ちゃんから貰ったものだから、男の人に貸したってバレたら地の果てまで追いかけそうでしょ?」
そのあと「まぁ、何はともあれ、奏楓が幸せなら私はそれでいいよ」と呆れながらも言ってくれた。
「ちなみに、日向くんのどこを好きになったの?」
先程までの表情とは打って変わって、葵はニヤニヤとしている。
「あ、ほら!し、信号、青になったよ!」
赤くなった自分の顔を隠すように、早歩きで信号を渡った。
喋れば喋るほどイライラさせられるし、何考えてるか分かんないし、人のこと無視するし、猫みたいに気まぐれ。
だけど、ほんとは優しさをうちに秘めているとても不器用な人。
そんな彼が私は大好きだよ、と心の中で思いながら。
FIN
最初のコメントを投稿しよう!