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しかし、その直後に知ってしまった。
奏楓が待っていたのは、橘だと。
本人には絶対に言ってやらないが、男のオレから見ても、あいつはかなり良い男だと思う。
奏楓の隣にいて良いのはオレじゃない、あいつの方だ。
・・・これは蓮との約束を勝手に破ろうとしたバツだ、そう思った。
そこからはもう地獄だった。
自分の気持ちをもう一度抑える為に、出来るだけ奏楓に会わないようにした。
自分の家にいると、隣の部屋に奏楓がいるということを意識してしまうので、なるべく遅く帰ったりもした。
仕事に没頭して忘れようともした。
だが、簡単には忘れられない。
そんなオレに追い打ちをかけるような出来事があった。
それは、職場の休憩室の自動販売機へ飲み物を買いに行ったときのこと。
出張でこちらへ来ていた橘も飲み物を買いに休憩室へ入ってきた。
「百瀬、おつかれ」
あいつの顔を見ないまま「おつかれ」とだけ返し、腰を屈めて今買った飲み物を自動販売機から取り出した。
「オレさ、奏楓ちゃんに告白したんだ」
「・・・ふーん、そっか。じゃ、戻るわ」
おめでとうとは言わなかった、いや、言えなかった。
あれが今のオレの精一杯。
やっぱりこれはオレへのバツなんだ。
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