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12月のとある日。
住んでいるマンションの1階で、私はエレベーターが降りてくるのを待っていた。
すると、後ろから人が近付いてくる音が聞こえてくる。
「こんばんは」
そう声をかけてきたのは、このマンションに住んでいる男の人。
もっと正確にいうと、私の隣に住んでいる人だ。
こちらも挨拶を返そうとすると、電子音が鳴り響く。
男の人がポケットから携帯を出すと、その音は先程よりも大きくなった。
「ごめん、何か紙とペンを借りれないかな?」
咄嗟に持っていたカバンに手を突っ込み、お気に入りのペンと手帳の白紙ページをちぎって男の人に渡した。
ありがとうと言ったと思った次の瞬間に、もう彼は電話に出ており、ちぎった紙を壁に押し付けメモを取っていた。
仕事の電話かなと思いながら、降りてきたエレベーターに乗り込む。
顔見知りではあっても簡単な会話しかしたことがなかったが、それをきっかけに隣人の彼、橘 理人とよく話したり、食事に行くようになった。
しかし3月になり、転勤によって彼は引っ越すことに。
「必ず会いにくるから待ってて」
それが、彼と最後に会ったときの言葉だ。
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