かえってきてほしいだけなのに

ライラック

お知らせの方法が独特で、なんと奥さんの美子さんが自ら一部屋一部屋訪ねてまわるのだ。

美子さん曰く、住んでいる人の健康状態の確認も兼ねているとか、いないとか。

基本的にその場で出欠をとられるのだが、まぁ、なんというか、非常に断りにくい状態。

どうしても訪問のタイミングで不在の場合は、ポストに出欠確認の用紙が入っており、どちらか記入してから大沢さんちのポストへ投函するようになっている。

その甲斐あってか、毎回出席率は高めだ。

「ちょうどキリもいいし、今からランチしに行こうか」

今日は朝から2人で保育園の子どもたちのために、手作りでおもちゃを作っていた。

ある程度は完成したので、机の上に広がるハサミやら牛乳パックやら画用紙やらを片付けはじめる。

これで楽しく遊んでくれるといいなー、すぐ壊れたりしないといいけど、と思いながら自分で作ったおもちゃをショップ袋にしまった。

「これ部屋に置いてからまた来るね」

「1分半以内に戻って来てよね」

急いで行けばなんとか達成出来そうな絶妙な制限時間を設けてくる葵を背に、301号室を出た。

階段を駆け上がり自分の部屋の前に来たところで、402号室の扉が目に入る。