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「あとはバタフライだけだ。絶対泳げるようにしてやるからな」
私がめいっぱい、力の限り頷くものだから先輩大笑いしちゃって。思い出すだけでもはずかしい。
だけど去年の初夏、事故はおこった。
先輩は川で流された小学生を助けようとして……。
小学生を助けた先輩は意識不明の状態。
意識が戻ったと聞いたのはそれから1ヶ月後。その時の嬉しさは今でも覚えている。第一報はみんなが集まるプールサイド。顧問の先生が駆け込んできて、朗報を聞いた私たちは歓喜と水しぶきで祝福した。みんなで抱き合って、プールに飛び込んで喜びをわかちあった。
だけど……。
ふたたび扉が開いた。緊張感が教室を支配する。
「喜多川、入れ」
先生に促されて背の高い少年が右足を引きずり入ってくる。
(先輩、髪の毛のびた)
水しぶきのなかにいた先輩はどこかに置いていかれたみたい。
運動機能の低下。軽くグーパーしている右手も動かしにくいみたい。アスリートにとっては過酷な後遺症。それでもこの短期間でここまで回復したのは奇跡だとお医者様も驚いていたという。
入院生活とリハビリが長引いた先輩は、今日から同級生として学校に戻ってきた。
「子供が助かって、本当によかった」
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