0人が本棚に入れています
本棚に追加
教壇に立った第一声だった。小さくて聞き取りにくいけど、先輩らしい言葉。
「僕も、生きていてよかった」
だれかの息を飲む音が聞こえた。だれか、じゃなくて私のだったのかもしれない。
「不自由なことが増えてしまって。みんなに迷惑もかけると思う。そこは今のうちにあやまっておきたい」
?に流れるものを、私はぬぐってはいけない。だれかに指さされても、泣いてやんのと茶化されても。先輩はここにいるから。
「それから、僕は水泳部にいたんだけど。あれからすっかり水がこわくなってしまったんだ」
教室がざわついた。激しい運動は禁じられたと聞いていたけど。わかっていたけど、とてもさみしい。
「恥ずかしい話、風呂に入るのも命がけなんだ」
しばらくしんみりしていたけれど、何人かが吹き出した。リカなんかは「そんなアホな!」と合いの手までいれた。それにつられて緊張感がほどけていく。みんなリラックスした笑顔になった。
ひとしきり、笑いがおさまってから先輩は一呼吸おいてふたたび口をひらく。
「水に入るのがこわいのは本当。水面を見ると手足が震える。選手として泳げなくなった悔しさのせいかもしれない。けど僕は水泳部に戻ろうと思ってる」
マジで? なんで? みんなが疑問符を先輩に投げかける。
最初のコメントを投稿しよう!