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おかえりなさい、先輩
先生はあたたかく迎え入れてあげてください。と言った。
朝から霧雨の降る連休明け。教室は静かだった。こんな静かなHRははじめてじゃないかなと思う。
一旦先生が職員室に戻って本人を連れてくるという。みんな糸が切れたように大きなため息を吐き出した。
「なんか、複雑な心境だよね」
リカが振り返って囁いた。頷く私。
「本当なら、今頃強化選手かっていう喜多川先輩がさ、こんなことになるなんて」
うん、と力なく頷く私にリカはバンと肩を叩いてくれる。
「あこがれの先輩だものね、あんたには」
なにを言われても頷くことしかできないでいる。あこがれの喜多川先輩は水泳部のホープだった。私はロクに泳げもしないのに先輩のクロール、なめらかに水面に吸い込まれていく指先を見ただけで入部届けを提出していた。
バタ足しかできなかった私に先輩は熱心に指導してくれた。先輩のおかげでクロールも平泳ぎも背泳ぎもできるようになった。とても選手になれるスピードではないけど、ひとつずつ課題をクリアしていく私に「やればできる子」と笑いながら頭ポンポンとかしてくれて……。
やだ、顔が熱くなってきた。リカにばれないといいけど。
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