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「うん、昼休みに。待ってるから」
受け取ると、春彦先輩はにっこり笑って立ち上がった。
「用事思い出したから、行くね」
呼び止める間もなく、春彦先輩は立ち去った。
一気に全身から力が抜けた。
本当に本当?
春彦先輩が?
……あの憧れの?
チャイムが鳴っても呆然としていた。
のろのろと授業が始まろうとする教室へ向かう。
途中で体育館のそばを通りかかった。
どうやら体育の授業はないらしく、人気はない。
でもボールの音と、キュッという床にシューズがこすれる音がした。
誰かいる。
そっと開け放された扉に近づいた。
流れるようなダンクシュートで、バスケのゴールを決めている。
秋羅先輩だった。
制服のカッターシャツを無造作に腕まくりして、一人でバスケの練習をしている。
扉に寄って、そっと眺めた。
真剣な眼差しと、真っ白なシャツが眩しい。
バスケ部のエースである秋羅先輩がポストにボールを放つ。
素人の私でも、そのフォームはとてもきれいに見えて。
すっと伸びた指先に目が吸い寄せられた。
昨日、包帯を巻いてくれたその手。
ボールは、大きく弧を描いて、またゴールに入る。
あのきれいな指が、私の足首に触れていた。
そう思うと、なんだか恥ずかしくなってきた。
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