眠り姫を起こしたのは?

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大きく深呼吸した。 あの日、あの時、欅の下でキスしたのは。 全く関係ない話だったら、どんなにホッとするかなとか。 やっぱり、実はって打ち明けられたらどうしようとか。 たらればの想像ばかり。 でも一つ。 なんでか引っかかってる、秋羅先輩のこと。 幹の後ろまで近づいた。 「あの、春彦先輩」 声がうわずった。 呼びかけてから、なんて続ければいいのか分からなくなった。 心臓がもたないかもしれない。 それほどに緊張して。 先輩が体を幹から起こして、私の方に向き直った。 春彦先輩は、はにかむような笑みを浮かべている。 「ね、手のひら出して」 素直に手のひらを差し出した。 そこに先輩の手から、ばらばらと落ちた小さなもの。 きれいなレモンイエローの色が目に飛びこんできた。 レモンミントのキャンディ。 思わず顔をあげた。 「先に謝る。ごめん……」 春彦先輩は静かに頭を下げた。 なんで謝るんですか? その言葉は喉の奥に張り付いたまま。 「おととい、ここで姫野が寝てた。……で、その……」 言いにくそうに言葉を紡ぐ先輩を、見つめた。 鼓動が速い。 でも。 なんだろう……何か。 ……違う。 「寝顔が、かわいくて……その、つい、キス……した」     
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