春彦先輩と秋羅先輩

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春彦先輩と秋羅先輩

保健室のイスに座らされ。 目の前にひざまずく秋羅先輩の手元を見つめた。 包帯を足首に巻いていく先輩の手つきはひどく優しい。 シトラスの香りのせいかな。 さっきから胸の鼓動がおさまらない。 まるで触れられた足首から、全身に冷めない熱が巡っているみたいだ。 保健室に、先生はいなかった。 それを見てとった秋羅先輩は、手慣れた様子で冷感湿布と包帯で応急処置をした。 「すみません……」 小さく謝ると秋羅先輩は、ゆるく頭を振った。 「謝るのはオレの方。ごめん、きちんと前を見てればこんなことにならなかった」 メガネの奥の瞳は、柔らかい光をたたえている。 春彦先輩ならいざ知らず、秋羅先輩がこんな優しいなんて思ってもなかった。 「あの……秋羅先輩」 片付け始めたその背中におずおずと声をかけた。 秋羅先輩が振り返る。 「先輩、柑橘系の香水つけてるんですか……?」 「あ、ごめん。きつい?」 「いえ、違うんです」 もう思い出していた。 あの、欅の下で眠っていた時の残り香。 柑橘系の香水は他の人がつけてないとも言えない。 秋羅先輩である確証はない。 それでも、春彦先輩ではなく、秋羅先輩だったらいいなとふと思った。     
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