春彦先輩と秋羅先輩

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「あの……せ、先輩って、実は優しかったんですね」 昨日、校庭の欅の下にいたりしてませんよね? そう聞こうと思ったのに、違う言葉が出た。 秋羅先輩は驚いたように目を見開いて、それから「どうかな」とかすかに笑った。 先輩は包帯や湿布を元あった所に戻して、私を見た。 「足首の腫れがひかないようだったら、早めに病院行った方がいい」 「はい」 「じゃあ、そろそろ戻るから」 先輩は受験生だ。 ここで時間を費やしてる暇はない。 でも。 「先輩」 先輩が振り返った。 「……先輩、飴好きですか?」 「……え?」 「レモンミントの味、とか……」 いきなり何を言ってるんだろう。 キャンディの話なんて、急に聞かれても困る。 思わず俯いた時。 「……好きだよ」 静かに先輩が答えた。 パッと顔をあげると、秋羅先輩が私を見つめていた。 どこか探るような、何かを言いたげな、そんな瞳で。 どくん、と胸が大きな音を立てて、こくりと喉が鳴る。 保健室の空気が、急に緊張した。 「先輩、校庭にあるーー」 欅の所で、と言いかけた時だった。 保健室のドアがノックされた。 「アキ、姫野さん。まだいる?」 春彦先輩の声だ。 「ハル」秋羅先輩がドアを開けた。 「いたいた。アキ、カバンもってきた。姫野さんのも」     
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