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こうなるともう適当に相槌を打ってやり過ごすしかない。何か言おうものならかぶせるように言い含めてこようとするこの上司に、もはや何も反論する気は起こらない。それでも周囲の何とも言えない視線は気分のいいものではなかった。不干渉を貫く様子には仲間に対する最低限の同情の気持ちすら感じられない。ちろちろ。ちらちら。ただ見るだけの同僚たち。だからわたしも彼らに対して何も感じないよう心を閉ざしている。
話を聞いている間、姿勢を保つので精いっぱいだった。ここ最近の寝不足がたたって貧血気味の体は幾度も傾いてしまいそうになった。苦行そのものの時間、こんな状態ではどんないい話も頭に入るわけがない。
それでも、課長の言い分にはもっともなところがあった。
とはいえ、それはいつでも誰でも同じだ。
だいたい、人の意見のどこかには何かしらの正しさがある。そしてわたしは誰かともめることが苦手だった。それゆえ相手の言うことやることのどこかに何かしらの理屈が通っていると感じれば反論できなくなってしまうのだ。だから言いたいことがあろうが辛かろうが、トイレに行きたくなろうが、ひたすらこの時を耐えしのぶだけだった。
一時間、こってりと、説教のような憂さ晴らしのような攻撃を受けた後、席に戻ると、ディスプレイに新着メールありのポップアップが表示されていた。クリックすると複数のうちの一つが斉藤くんからのものだった。斉藤くんは同じ課の同期、しかも恋人だ。入社してすぐにつきあいだしたから、この誰にも知られていない、いや知らせるような人もいない秘密の関係も二年近くになる。
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