第一章 死にたい

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 とはいえ、社内メールを利用して連絡してくることはあまりなく、何か業務関連のことかと何の気もなしに開封したところ、それは結婚の報告だった。  結婚。  まさかの結婚である。  もちろん相手はわたしではない。  タイトルに視線を移すと、『結婚のご報告』とあった。衝撃的なタイトルだが全然気づいていなかった。本文に目をやると、結婚することになったので報告します、二か月後に地元で式を挙げます、これからも今まで以上に仕事にまい進しますのでご指導ご鞭撻をよろしくお願いします……、そういったありきたりな文面が並んでいた。課の全員に一斉配信したもので、それ以上でもそれ以下でもなかった。  虚ろな気持ちでディスプレイから顔をあげると、向こう側に席のある斉藤くんがぱっと顔を伏せた。その行動はまさに一つの事実を雄弁に物語っていた。つまり、このメールに書いてあることは本当なのだということを――。  * 「死にたい……」  今日はいつも以上にこの言葉が出てくる。  むくんだ足をローヒールのパンプスがきゅうきゅうと締めつけてくる。早く帰宅して脱いでしまいたい。だが足は一向に進まない。ぽつぽつと立つ街灯の下、夜道を一人、ずるずると足をひきずるように歩くわたしは相当みじめだ。重い鞄が肩に食い込んで痛い。 「ほんと、死にたいなあ……」     
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