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「いきなりこんな時間に、しかも断りもなく突然来るっていうのはどういうことなのよ?」
「どういうことって?」
くりんと、リュウの大きな瞳が動くさまは無邪気そのもので、わたしは大げさにため息をついてみせた。
「だからさあ。普通、まずは電話してくるなりして、事前に行ってもいいかどうか確認して、それから来るものでしょ?」
「そうなのか?」
心底ふしぎそうに首をかしげられて、だからわたしは怒るべきか説教するべきか、はてさて口をつぐむべきか分からなくなってしまった。
リュウはわたしをじっと見つめるだけだった。
「俺は姉ちゃんに会いたかった。会う必要があった。だから来た、それだけだよ」
瞬き一つせず見つめられ、胸がざわついた。
「……なんで?」
ようやくそれだけを訊くと、リュウはわたしに近寄り、肩に手を置き、自然なことのように顔を近づけてきた。
キス――されるのか?
十歳相手に本気でどきどきしはじめた自分を愚かだと思いつつ、いまだ見つめてくるリュウから視線をそらせずにいると、あと十センチで触れるという距離で、リュウの顔が動く方向を変えた。そのまま、そっと頬に唇が触れそうになって――。
べろりとなめられた。
茫然とするわたしから離れたリュウは、なぜか満足げに笑っていた。
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