第一章 死にたい

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「いきなりこんな時間に、しかも断りもなく突然来るっていうのはどういうことなのよ?」 「どういうことって?」  くりんと、リュウの大きな瞳が動くさまは無邪気そのもので、わたしは大げさにため息をついてみせた。 「だからさあ。普通、まずは電話してくるなりして、事前に行ってもいいかどうか確認して、それから来るものでしょ?」 「そうなのか?」  心底ふしぎそうに首をかしげられて、だからわたしは怒るべきか説教するべきか、はてさて口をつぐむべきか分からなくなってしまった。  リュウはわたしをじっと見つめるだけだった。 「俺は姉ちゃんに会いたかった。会う必要があった。だから来た、それだけだよ」  瞬き一つせず見つめられ、胸がざわついた。 「……なんで?」  ようやくそれだけを訊くと、リュウはわたしに近寄り、肩に手を置き、自然なことのように顔を近づけてきた。  キス――されるのか?  十歳相手に本気でどきどきしはじめた自分を愚かだと思いつつ、いまだ見つめてくるリュウから視線をそらせずにいると、あと十センチで触れるという距離で、リュウの顔が動く方向を変えた。そのまま、そっと頬に唇が触れそうになって――。  べろりとなめられた。  茫然とするわたしから離れたリュウは、なぜか満足げに笑っていた。     
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