Crush on you

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Crush on you

「入学式まで、桜もたなかったわね」  がっかりしたような言葉を言いつつも、ママは笑顔でキョロキョロと辺りを眺めている。二人で並んでくぐった校門の先には、たくさんの人がいた。落ち着かないような表情の子、友達と一緒に笑っている子。どの子も、まだなじんでいない胸のリボンが、新入生だとわざわざ主張しているようだった。  その子たちの動きを見るに、職員玄関の横に貼り出されているクラス分けの紙を見に行って、それから自分のクラスの担当の受付に行くという流れらしい。この高校には、私と同じ中学から来た子はいないから、どのクラスになっても一人には変わりない。三組の列に名前を発見しても実際、特に嬉しくも悲しくもなかった。 「お手洗い行きたくなっちゃった。(あんず)、自分で受付しておいてくれる?」  ママはバッグから入学の通知を取り出して私に預けると、学校の案内図のプリントを見ながら職員玄関の横を小走りで抜けていった。  私は、「三組」とプリントされた紙が貼られてある机の列に並んだ。前に女の子が二人並んでいる。この子たちがクラスメイトになるんだ。そう思って、顔を覚えようと考えたけれど、あまりジロジロ見るのも気が引けて、なんとなく目をそらして地面や校舎を眺めて過ごしていた。 「はい、次どうぞ」  男女の先輩が二人一組で受付をしていた。私は、手を差し出した女の先輩に入学許可通知を差し出した。丸いボブがよく似合う、かわいらしい先輩だ。制服もいい感じに着崩していて、かっこいい。 「えっと……久住杏(くずみあんず)さんね」  名簿に丸を付けてから隣に座る男の先輩に許可通知を渡す。男の先輩は通知をしまってから書類の入っている袋を差し出し、にっこりと微笑んで「入学おめでとう」と声を掛けてくれた。明るめの茶色い瞳が印象的で思わず釘付けになるも、はっと我に返り、小さく頭を下げる。数秒で顔をあげた瞬間、先輩が急に前屈みで机に伏せた。
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