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屋上から見渡す街並みは何ものにも支配されることなく、穏やかに幻想的で人の心を動かしていく。
黄昏時が生み出す情景は時の流れと共に私を引き込んで離さない。
『いつの間にこんなに…。でも明るい…?』
ふと、目線を上げてみる。
そこには目をそらせぬほどの圧倒的な存在感を放つ、大きな満月が姿を見せていた。
『綺麗…。あの時の月と同じだ…。』
と、口走る自分に少し驚く。
昔からたまにある見知らぬ情景や人が頭をよぎるが、すぐに微かな余韻だけを残して消えてゆく。
特に気にも留めない。
月明りが誘う悲哀な感情は、思い出すべき何かがある事を肌で感じさせた。月には何か必要な事を引き出す不思議な力があるのかもしれない。
珍しくちょっとロマンチックになるのも、また月のせいかと笑みを浮かべた。
心地良く吹く夜風に、ゆっくりと目を閉じ味わう。
『心地いい。最近こんなゆっくりした時間あったかな?』
ひと時の安らぎは、妙な思いを巡らせた。
『このまま、この世界から消えてしまった ら…。』と思った瞬間、意識が落ちていった。
目を開くと、何かに引き込まれる衝撃と、大量の水泡が物凄い勢いで目の前の視界を 遮(さえぎ)っていった。
思考は停止し恐怖と焦りから勝手に体がもがく。
『ここは水の中?』
『苦しい?溺れる?怖い?誰か助けて?』
必死でもがくが、誰も来る気配などなかった。じたばたともがいたせいで、だんだんと意識が朦朧とし、私の体は水の底に引きずり込まれてゆく。
沈みゆく水の中は、余計な音も体の自由も奪い脱力感を与えていく。
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