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唯一許されたことは口から零れていく水泡をただ目で追う事だけだった。
訳も分からず恐怖に支配されていく私の中に、突然見覚えのない記憶と懐かしい記憶が脳裏を巡り何かを呼び覚ました『この記憶は……何?』
いろんな人の話し声。
無数のクラクション。
たくさんの人が行き交う足音。
聞き慣れた生活音。
ヒールの音を響かせ、行きつけの店でコーヒを買い、行き慣れた道を通り会社に向かう。
いつも通りの日常の中に私はいた。
やっと形にした思い描いた日々。
今の生活を手に入れる為に私は人一倍努力も時間も費やしてきた。
何故、この仕事にこんなに力を入れているのか。
それは、五歳の頃まで遡る。
昔から、自分が生まれた意味をよく考え何故そんなに考えてしまうのかずっと不思議に思っていた。
幼い頃、テレビに映る煌びやかで活気に満ち溢れた世界が目に飛び込み衝撃を受けた。
『これだ。』
と、胸は高鳴り、自分の探していた答えはきっとここにあるのだと強く確信した。
それから自分自身を綺麗に着飾る事が、あの場所に近づく近道だと思い、少ないお小遣いで洋服を買い、自分自身をプロデュースしていた。たったワンポイント変えるだけで、イメージが変わったり、それを人が見て褒めてくれたり、真似をしてくれたり、人の目に止まる毎日が楽しくてしょうがなかった。
時の流れと共にその思いは形を変え、人を綺麗にする事が、自己表現なのではないかと、思うようになっていた。その為に高校卒業と同時に、上京して本格的にファッションの道へ進もうと計画してい
た。高校卒業を一年後に控えた頃に、両親に上京する話を持ち掛けた。
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