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汐里の気持ちも分からなくもない。
自分のことを束縛してきた兄。
その兄が連れてきた家庭教師に襲われそうになったのだ。
家に二人っきりでいる時に何もなかったのがせめてもの救いかもしれなかった。
自分が汐里だったとしても、きっとこの兄には付いていけないと思うだろう。
樹は黙って聞いていた。
「オレ……もうどうしたらいいか分からなくて……。可愛い妹に嫌われたらもう生きていけない」
カウンターに突っ伏して震えた声で話す光弘。よっぽどショックだったのだろう。
しかし、それ以上のショックを汐里は味わったのだ。
「妹さんの気持ちにもっと寄り添ってあげることが出来てたら良かったのかもしれませんね」
樹は言った。
光弘は樹の方をちらりと見て、またすぐに視線を外した。
「オレは、全てアイツのためだと思ってやってたんだ」
門限のことも、家庭教師も何もかもを汐里のためだと思っていたのだ、と光弘は絞り出すような声で話す。
「汐里はオレの気持ちを全然分かってない……!」
「だけど、お兄さんも彼女の気持ちを分かってませんよね」
光弘はムッとしたが、言い返す術がない。
だから、今このような状態になっているのだ。
真っ直ぐこちらを見据えている樹から、なぜだか目を逸らしてしまう。
どことなく後ろめたかった。
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