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「お兄さん、気持ちは分かりますよ。でももういい加減にしたらどうです?」
「誰がお義兄さんだ!お前こそいい加減にしろ!ヒクッ!!ウィ~」
「かなり酔っちゃってるなぁ」
気が付けば、光弘は六杯も飲んでいた。
勢いよく飲み干しては次のカクテルをオーダーし続けた結果だ。
来店してから既に二時間ほど経過している。
カウンターに突っ伏して酔い潰れている彼を見て、樹と伊織、そして篠原は顔を見合わせていた。
「自分の飲めるペースとか全く考えてないよねぇ、このお客さん」
伊織が呆れて肩をすくめた。樹も困った顔で頷いた。
何度この兄に迷惑を掛けられているだろう。
光弘と関わるとろくなことが無い。
時折、うわ言のように妹の名前を呟く彼に、樹はもうどうしようもないものを感じていた。
汐里は誰にも相談できずにいたのかもしれない。
友達には何かしらのことは話していただろうが、力が及ばず兄の強引さから逃げることが出来ないで今に至るのだろう。
兄が妹を守ろうとすればするほど、彼女は不幸になっていく気がする。
自分に会いに来てくれた時の汐里の笑顔が記憶の中で眩しく見えた。
「もう閉店の時間だなぁ。どうする、このお客さん?」
「お勘定もまだですよ」
篠原と伊織が、光弘を見ながら困ったように会話している。
樹は、やれやれという様子ではぁっとため息をついた。
幸いにして彼の家は知っている。
「オレがタクシーで送っていきますよ」と言い、樹は服を着替えたあと光弘を担いで外に出ていった。
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