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ゆらゆらと揺らめく水面。汐里は夜の海を見つめていた。
柵にもたれ、水際に一人立っている。
今夜の月はいつもに増して大きく、そして明るく輝いているように思う。
柔らかい光に揺さぶられ、波の音が優しく響いていた。
ピンポーン♪
突然、玄関のチャイムが鳴った。
夢の世界から一気に呼び戻された汐里はハッとして顔を上げた。
テーブルに突っ伏して、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
もしかして兄が帰ってきたのかもしれない。
ふと見ると、時計の針は夜中の一時をとっくに過ぎているではないか。
こんなことなら先にシャワーを浴びておけば良かった。
最近は兄とはまともに話をしていない。
今まで毎日頑張っていた家事も料理も、ここ一週間は全く出来ていなかった。
やろうとは思うのだが、その度に不安が押し寄せ身体が重くて動けなくなる。
虚ろな目で、まるで頭にモヤがかかったような、どんよりとした気分になってしまうのだ。
麻耶と咲子が遊びに来てくれる時は、それなりに元気が復活する。
しかし彼女たちも忙しく、毎日は来られない。
そんな日は彼女たちからスマホに届くメッセージに返信をするのが精一杯で、昼間ぎらぎらと照りつける明るい太陽の下、外に出ようという気持ちにもなれない。
買い物にも行けず、ため息とともに家の中でごろごろしているような毎日だ。
元気印だったはずの自分が、真逆になってしまった。
汐里は、こんな自分がこの先どうなるのか不安でたまらなかった。
とりあえず、チャイムが鳴ったので放っておくわけにはいかない。
のっそりと起き上がって重い足取りで歩き、玄関前の廊下までやってきた。
だが、汐里はふと考えた。
兄が帰ってきたのなら、なぜ自分で鍵を開けて入ってこないのだろう。
不安な面持ちのまま、汐里は玄関の様子をモニターで確認した。
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