25人が本棚に入れています
本棚に追加
「何だろ、090……あっ!」
拾い上げてみて汐里は驚いた。そこにはボールペンの手書き文字。
携帯の番号、メールアドレス、そしてメッセージアプリのアカウント名とID。
樹の名前とともに記されている。
『困ったときはいつでもどうぞ』
汐里は紙切れを手に持ったまま玄関に立っていたが、急に方向を変えたかと思うと自分のスマホを手に持ち二階の自室へと駆け込んだ。
ベッドに腰掛けながら、書かれている内容を慎重に登録していく。
指先が震えてちゃんと入力出来ているか心配しながらも、一文字たりとも間違っていないことを確認したあと送信ボタンを押し、汐里は手順に従って画面をタップした。
(樹)早速来たね
画面に表示された名前とメッセージを見て、汐里の心はドキンドキンと跳ね上がった。
これでもかと波打っているのが分かる。
(汐里)今日はどうもありがとう!
(樹)もう遅いよ、早く寝た方がいい
(汐里)嬉しくて眠れないよ!
(樹)疲れてるだろ?
何かあったらいつでも聞くから
今日はおやすみ
「やだーっ!嬉しい嬉しい――!!」
スマホを抱きしめながら、汐里は一人叫んだ。
樹が打った文字が空間を飛び越えて今、この手の中にある。
しかも自分だけに向けられた言葉だ。
汐里は、持っているありとあらゆる「大好き」を表現したスタンプを全て使い、顔じゅうを笑顔で満たして再びスマホを抱きしめた。
この一週間、地の底に落とされていたような気持ちが嘘のように幸せで上書きされていく。
彼女の心の海は月の引力で、これ以上ないほどに満ち潮になっていた。
最初のコメントを投稿しよう!