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何もない。 不思議だ。 ほんの昨日までは、この地に生が溢れていた。 繁る 木々。さえずる鳥達。青瓦の町並み。 そして明るい笑い声を立てる人々。 単純な毎日を、日々の穏やかな日常を いつまでも続くと信じて生きていたはずなのに。 今眼下に広がる景色。 荒涼とした砂、砂、砂。 吹き抜けていく風が渦巻き砂塵を巻き上げていく。 「ヒイナ!」 背後から重金属の擦れる音が近づいてくる。 ちっ。 見つかってしまった。もう少し一人でいたかったのに。 塔の天辺なら誰も来ないと思ったのに。 イラついた気持ちを宥めるべく、右手に握る黒のロンギを床に打ち付けてみるがそんなことで落ち着くわけがない。 「そろそろやつらが来る」 左肩に触れるように並び立つ銀の鱗を重ねた甲冑が、ガサガサと耳障りな音を立てている。 「わかってるわ、あそこの紫雲。こっちに向かってる。」 石畳を打ち鳴らしたロンギの先端を空の彼方に向ける。 いや。もう彼方じゃない。 かなりのスピードで此方に向かっている。 「算」 呟きと同時にゴーグルの右端に数字が上がってきた。 到達時間。 「あと、3ビエム」 「戦闘準備!」 塔の下で合図を待つ兵士達に甲冑野郎の怒号が飛ぶ。 「先にいく」 ロンギを大きく振りかぶり後ろ手に持つ。 脛当てなど気にもしないというように膝を深く折り、床を蹴りあげた。 瞬間、黒い塊が目の前を走り、落下していく。 その下で待つのは漆黒の馬。巨体を受け止めてもよろめきもせずいななきを一つ上げた。 「おい、ヒイナ!」 うっさい!! 騒ぐな、ジジイ 塔の端に移動して声を張り上げる。 「点!」 塔の下に巻き起こる光の渦。 その大きさ直径50センチほど。 「出撃!」 甲冑野郎がロンギを振り上げた途端。 鬨の声が荒野に響きわたった。 二、三度軽くジャンプ、そのまま飛び降りる。 落下した先の光の渦「点」、それを足場に跳躍。 「点!座標w865e51h76」 ワタシの前に次々に浮かぶ渦。その上を走り抜けていく。 目指すはあの紫雲。 地上から湧き上がってくる鬨の声が、耳から脳に脳から心臓へと流れ込む。そこで作られたエナジーが 血液と共に体中を駆け巡る。 見なくても分かる。 膨れ上がる腕の血管。 カッと目を見開き、紫雲に隠れた敵の影を探す。 死なせない もう誰も。
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