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プロローグ~春の日~
“チリンチリン”
春の晴れた日の早朝。
僕はいつもより30分以上早く家を出た。
新学期が始まって、新入生や新社会人がドッと乗り込んで電車が混んでしまうようになったので、座れるように早めの電車に乗りたかった。
日中は暖かくなったが、まだ朝晩は少し冷える。スプリングコート着てきて正解だった。
このコート、高かったし、もう少し活躍してもらわないとな…
そんなことを考えながら歩道の真ん中をぼんやり歩いていた僕の後ろから、女子高生の乗った自転車が、控えめにベルを鳴らしながら近付いてきた。
僕はその聞こえるベルの音から、自転車とはまだ距離があると判断して、後ろを振り返ることなく、歩道の脇に寄って自転車をやり過ごそうとした。
普段は赤茶色のタイルが敷き詰められた歩道も、舞い散った桜の花びらが敷き詰められて、今日だけはピンク色に染まっている。
朝が早いので、まだこの道を歩いた人も少なく、夜間の風で散った花びらは、まだ綺麗なままだ。
自転車のタイヤがタイルを擦る音が近づいてきた。
僕は完全に足を止めて、そのピンクの絨毯を見つめていた。
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