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女王の夫
今朝も剣を打ち合う音が聞こえる。
明ける空の下、ジェド・クィン・エメワリゼは、妻である当代政王ネイラシェント・クィン・レグナ…ネイの剣を剣で受け止めた。
ジェドとしてはまだ寝台にいたいところだが、ネイの要望には弱い。
結婚当初はこちらのわがままに付き合ってくれたものの、1年も経つと立場が逆転して、早起きに付き合わされることになった。
あの頃はかわいかったなと思っていると、目の前のネイが間近で、考え事かいと聞いてくる。
間に剣がなければいいのだが、と思いながら、力を軽く横へ逸らして、ネイの首筋へ剣の柄を当てた。
「うん?1年前のお前を思い出していた」
「1年前?」
ジェドは剣の柄を引いた。
「ああ…あの頃はよかった。この時間はまだお前を抱いていられた」
ネイは剣を振り上げて再びジェドに打ちかかってきた。
「恥ずかしいこと言ってるんじゃないよ、こんなときに!今の私に集中しろ!」
ジェドは溜め息をついて言った。
「今のお前を見ているから思わずにはいられないんだ。せめてあと時間半ばぐらい寝台のなかにいてもよかった」
「妄想はその辺りでやめておけ!まったく、この状況で考えることか!」
「この状況じゃなくてもいつでもお前のことを思っている」
ネイは剣を合わせてぎりぎりと力で押しながら、言った。
「お前さんてひとは!どれだけ表情に出ないんだい!」
「努力している」
「変な努力だね!そもそもそうやって無表情の裏に下心を隠していなけりゃ話はもっと簡単だったんだよ!」
「隠していなければよかったか?」
「まあ、そんなのはお前さんじゃないね!」
ネイは後ろに飛び退って息を整えた。
ジェドは一足で間を詰めると、ネイに打ちかかった。
激しく重い打ち込みに押されて、ネイは次第に後退する。
白線の端まで追い詰められて、ネイが逃れようとした方向にジェドの腕が伸びる。
体を動けなくされて、ネイは荒い息を吐いた。
「降参。放しとくれ」
だがジェドは放さず、後ろからネイの耳元で息を吸い、囁いた。
「今からでも充分時間はある」
「何の時間だか!」
「寝台に戻る時間…」
「ああ、もう。私は汗を流す!放せ!」
命令にも弱い。
ジェドは手を放し、ネイを自由にした。
ネイは振り返るとジェドに口付け、今回はここまでだ、と言って鍛練場を出ていった。
揺れる金髪を見送って、ジェドは最初の口付けを思い出していた。
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