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2年前
あのときネイは限界だった。
何にと言えば、城内庁長官ルデオ・ディオスが持ち込む夫候補の身上書の山の押し付けにだ。
18歳になってから持ち込まれるようになったそれらは、1年も経つとどこにそんなに人材がいたのかと聞きたくなるほど増えていった。
同時に茶会やら夜会やらの集団見合いのような催しも増え、ネイは着慣れない夜会服を押し付けられることにも嫌気が差していた。
さあ、そろそろ選んでください!と連日言ってくるルデオに、ネイはとうとう我慢の限界を迎え、ジェドに言った。
「ジェド、思い人はいるか!?」
「…なぜそんなことを聞く」
「お前さんに恋人の振りをしてほしいんだ。もう夜会服は着たくない!」
この頃のネイにとって、夜会服は夫探しへの圧力の象徴だった。
「お前さんに思うひとがいるなら別の誰かでもいい。とにかくもううんざりだ!」
その言葉を聞いて、ジェドは即座に頷いた。
「いいだろう、恋人の振りをする」
「本当か!ああ、もう、一生恩に着る!」
ネイは早速ルデオに向けて、自らの風の力で恋人ができたと伝達した。
風の力とは、異能のひとつだ。
この大陸に住むすべてのひとは、土、風、水、火の4種の力のうち、1種から数種を持つ。
その配分はひとによって異なるため、異能と呼ばれる。
ネイは風が強く土を少量だけ持つ者だ。
その風の力を使って、多くは声や、紙に書いた文字による伝達を届ける。
ルデオはその伝達を受け取って、大急ぎでその相手は誰かと政王執務室まで問い質しに来た。
「ジェドだ」
「ジェド様ですか。それはまた身近なところで落ち着かれましたな」
ジェドは高位の騎士である白剱騎士だ。
身近すぎて今更というところもあるが、相手として不足はない。
ネイは眉を上げてルデオを睨みつけた。
「悪いか」
「ああ、いいえ。しかし急なことで…お付き合いはいつから?」
「ついさっきだ!文句があるか!」
「いいえぇ、とんでもない。喜ばしいことです。それでは結婚を前提にお付き合いを始められたということでよろしいのですな」
「ああ、そうだ!だからもう茶会も夜会もなしだ!」
ルデオがネイを見る目を疑わしそうなものに変えた。
「まさかそれが嫌で嘘をついておられるのではないでしょうな」
ジェドが口を挟んだ。
「これ以上夫探しのためにほかの男といるネイを見たくないと、俺が言ったんだ。やめてくれるな」
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