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 小学生になると毎日ようちゃんと二人で登校した。というのも同じ学区に他に子供がいないからやむを得ずでもある。  それまで一人で学校に通っていたようちゃんは一緒に通うことをとても喜んでくれて、小学校までの15分、その時間が学校生活の中で何よりも楽しいものだった。  あれはハナミズキ、これはオオイヌノフグリ、じゃああれは、指差す先へと梅雨明け宣言を知らん顔するツバメがすいと横切り、ひこうき雲がもくもくと形を成しては解けてゆく様を飽きもせず見上げる。ススキの穂に負けずとも劣らない黄金色の髪は寝坊気味の朝焼けに映え、薄霜が降りた日はようちゃんの袖の中に手を差し入れて、冷たいと顔をしかめるもそのままにするから存分に甘えた。春夏秋冬のほとんどを二人で感じ、分かち合い、その時間がようちゃんの中の全てだとすら思っていた。 「ようちゃん、あのね」  小股が三歩、大股が二歩砂利を噛む音に乗せて私の唇は歌うように話を紡ぐ。よくもまあ毎日飽きもせず話し続けられたものだ。箸が転げるだけでもおかしい年頃だった、そのせいもあるかもしれないが、話題の種となる百面相の日々よりもようちゃんとお話をするその時間、少し眠たげにしながらも「うん、うん」と私のペースに合わせながら相槌を打つ、穏やかに進むその時間が好きだった。
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