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痴女が手にしているのは手に握る程度のサイズ、弾丸型をした、この形状は座薬のようなものだろう。
「薬、か」
未来の道具ならスタイリッシュじゃないとウケないぜ。薬で記憶消去だなんて、身体は子供、頭脳は大人な作品の黒服レベルじゃないか。ボールペン、ピカーッて感じで記憶を消すサングラスの黒服とくらべてダサいぞ。
「うんうん。正義の執行者だから、無益な殺生はしてはいけないってあるんだよねえ。後々処理が面倒になっちゃうからかなあ。君の記憶を無くして、本部に送還し、その後存在自体を書き換えてあるべき人生へ戻す。君の存在を書き換えると、君の存在していたということが一度歴史から消えて、影響を及ぼしたことが無かったことになり、この時代で君に関わった人たちの記憶から君が消える。君がもちこんだものや、行動した特定の出来事も消えて。えっと、実はあたしもよくわかってないんだけどなあ。まあ、正しい歴史になるんだねってこと!」
俺が持ち込んだもの、大正時代にはないもの。メルの服、下着。メルという人形。存在すべきじゃないものが、存在することになった。だから下着も衣服も俺の基準に修正されたってことか。これも推測だが、人形が存在すべき理由である【怪異】も可能性がある。修正力が彼女たち人形が存在し得る理由を作り出した。それを正すために痴女が俺の元に来た、ということだろうか。
「それでさー、きいてよー。ターゲットが男だって訊いてたからさ。憂さ晴らしもかねて、楽しもうとこんな格好で来たってわけさ。そしたら何よ、何よ~? 実際来て見りゃ男だけど、女ってさあ。マジ、ふっざけてんじゃああねえぞってよお!」
痴女が俺の胸を根元から荒々しく掴み、押しあげる。
「畜生、あたしの楽しみを返せよ偽乳女! いや、男か。あたしよりおっきいとか、男の癖にこんな躰からだしやがってよぉ! ムカツクわあ!」
痴女はどこからかナイフ的な光学兵器を取り出し、
「まっ、別の楽しみ方もあるか。どうせ、記憶消すんだし。死ななきゃいい、何やってもなあ!」
俺の右腕にそれを突き刺した。全身に走る痛覚にたまらず呻くも、既に次のナイフが痴女の手に握られていた。
「いいねえ、その絶望した顔そそるわあ。いくら泣いて懇願しようが、助けなんて来やしない。ここはもう裁きを執行する拷問部屋になったのさ。現世から隔離されたあんたとあたしだけの世界!」
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