次元修正パトロール

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 次は右手の甲に深々と刃が突立った。人形だが、痛覚は本物。直接脳に痛覚信号をゴリゴリと擦りつけられている。刃を捩ねじられ、痛みが走るたび、躰が跳ねようとするが縄に縛られ動かぬ躰には逃げ場がない。脳内が自己防衛を発し、痛みから逃れようと必死にもがこうとしているのに。実験にされるカエルもこんな気持ちなのか、なんて逃避してしまいたい。 「お前が人間であるとするあらゆる尊厳を全て奪いつくしてやるよ。今夜は暑い夜になりそうだよなあ! 精々良い声で鳴いてくれよなあ。豚みてぇによお!」  逃避しようと意識を手放そうとしても、痛みで現実に戻される。気絶させないように、じわじわ弄なぶる熟練された拷問の断罪者。悪魔がいた。瞳の奥は底知れぬ闇のようで、釣りあがった口角は悪魔そのものだった。 『あろうず……不思議な響きです。どのような意味をお持ちなのかしら?』  俺たちはこれから人形部隊を作る。俺が隊長で、そこには栗花落姫がいて、もちろんメイドの穂澄も近くにいて、変わらずお世話してくれるんだろうな。アロウズ、まだ栗花落姫と俺二人だけの部隊だけど、新しい人形たちも集まって。走馬灯って奴か? 『大丈夫』  こんなときだっていうのに、俺の頭の中には穂澄(ほずみ)の言葉が次々と浮かんできていた。 「気をつけて」こいつのことだろ。もう手遅れだよ。「風が来る」どういう意味だよ。目の前の悪魔が風、風邪、病んでる、病人ってことか。洒落てんなあ、おい。それはわからないわ。そんな洒落たこと言うキャラだったのか、お前。次からはキチンとわかるように伝えてくれ。「大丈夫」何が、だ。穂澄は何に対して大丈夫だと言ったんだ。あの時、風呂で見た穂澄の白裸は綺麗だったな。栗花落姫も負けてない。あの時の自家発電は今思い出してもエロい。孤独な姫が誰を想って耽ふけっていたのだろう。  俺の眼前にいるのは、よく見なくても目を背けてしまいそうなほどに裸体と変わらない格好をしている痴女。悪魔のような形相で笑っちゃいるが、女である。ならば俺が、俺がすべきことは――――、  俺が″解″をだした時、ピンクのウィンドウがPOPポップした。 【メルヘンドリーム・リミットブレイカー】を使用しますか。『YES』か、『NO』か。  ――――やるべきことは決まっている。  俺は心の中で鍵盤を凹へこます勢いで『YES』のボタンを押す!
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