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体を反転させたり、振りかぶってみたり。
流麗で踊るようなその練習風景を見ながらお茶を飲むのがお姫様の日課なのです。
「はぁ、私もあんな風に動けたら、どんなに素敵なのかしら。最近は修身のお稽古ばかりでつまらないわ」
もうお前もいい歳なのだから淑女らしくしなさい――と、お姫様は王様に厳しく言いつけられていました。
でもお姫様はお裁縫やダンスや楽器の練習なんかよりも、剣を振ったり虫を捕まえて観察したりする方が好きでした。
「バカだな。物事には役割ってもんがあるのさ、お姫様」
無礼な言葉が木の葉の中から聞こえてきます。
ガサガサと木の枝が揺れたかと思うと、サッと黒い影が地面に落ちます。
「あらクロ、おはよう」
「ふん、まったく淑女らしくない挨拶だな」
「おはよう、クロ」
「……おはよう、バカなお姫様」
クロと呼ばれた小柄な男の子は嘲笑しながら挨拶を返しました。
全身真っ黒な衣服に身を包んだ彼は、猫みたいに大きく背を伸ばすと、お姫様と向かい合うようにしてお茶の席へ着きました。
彼はお姫様の小間使いなのに、遠慮もなくポットからお茶を注いでお菓子に囓りつきます。
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