2人が本棚に入れています
本棚に追加
「いいか? お前は前線に出て剣を振る柄じゃない。そんなのはこの城にいる連中は誰も望んじゃいないのさ。お前の役割は、年頃になったら着飾って、社交界でダンスを踊ってそれなりの男のところに嫁ぐことなのさ」
ニタニタと嗤いながらクロは砂糖で汚れた指を舐めると、お姫様の大好きなベリータルトを手に取って、モグモグと食べ始めました。
お姫様はそんな彼を見ながらこんなことを言いました。
「私、それなりの男の人なんかと結婚したくなんてないわ。どうせ結婚するなら……そうね、トスクみたいにかっこよくて、あなたみたいに優しい人がいいわ」
「あいつみたいにかっこよくて俺みたいに優しい? ハッ、これはとんだお笑い草だ。あんた人を見る目が無さすぎるぜ」
おバカなおバカなお姫様――と、彼は付け加えることも忘れません。
でもお姫様は怒るようなことはしませんでした。
それどころか皮肉で歪む彼の顔に笑顔を向けるのです。
お姫様にはわかっているのです。彼が本当はすごく優しいということが。
「あなたって本当に素直じゃないのね。照れ隠し?」
「お前はどこまでも頭がめでたい奴なんだな。どうして俺がお前に優しくしてるって思うんだ?」
「なぜってそれはあなたが――」
お姫様がクロの良いところを伝えようとしたその時です。
お姫様の目から涙がこぼれ落ちました。
「またお前は姫様を泣かせたのか!」
トスクの怒った声がバラの園に響きます。
最初のコメントを投稿しよう!