序章

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 クロはテーブルの上にあったカップを手に取ると、ゴクゴクと音を立てて飲み干します。 「……ふん、いつまでもこうしていられると思うなよ。バカなお姫様」  彼はそう言ってバラの園から出ていきました。  その後ろ姿を見ていたお姫様は、なんだかとても悲しくなります。  初めは頬を伝うだけの涙にはいつしか嗚咽がまじり、最後は大泣きになってしまいます。 「姫様、あやつの言葉に心を痛める必要はありません」  トスクはお姫様を抱き締めて、頭を撫でてあげました。 「ちがうわ、そうじゃない……そうじゃないの」  お姫様はクロの言葉で傷ついたわけじゃないと思いました。  でもなぜそう思ったのかわかりません。  悲しい気持ちが涙になって、あとから、あとから、あふれてきます。  そのうちだんだん疲れてきて、お姫様は眠ってしまいました。  ◆  小鳥たちのさえずりでお姫様は目を覚ましました。  白いドレスを翻し椅子から立ち上がると、お姫様はバラの園へと向かいます。 「昨日はとても悲しいことがあったわ…………昨日?」  お姫様は思い出そうとしました。  日課のお茶会、トスクの剣術、そして―――― 「姫様、おはようございます」  考えごとをしながらバラの園を歩いていたお姫様の耳に、トスクの声が届きます。     
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