第1章

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 あれは、確か大学の二年になってすぐの四月。  前年に単位を落としてしまった必須の講義を再受講していたところ、彼女に声をかけられたのだ。現役合格で浮かれていたのか、単位を取らないと卒業できない必須を落とすという愚行。進級できたはいいが、再履の講義室、一年ばかりの中、二年はぼく一人という有様。  そしてそこに彼女がいたわけである。 「やあ、先輩。」と、ニコニコというよりニヤニヤという、何か悪巧みをするような表情を、無表情を保っていれば美人と形容できる顔に浮かべて彼女が言ったのをよく覚えている。  二年ぶりの再会だった。  ぼくと彼女は同じ高校に通っており、特に同じ部活というわけではないがそれなりに言葉を交える間柄だった。  しかしぼくは高校時代のことを思い出すよりも前に、この女子に一体何をされるのかと気が気でなく、怪訝な顔で彼女を見返すだけだった。  途端に不機嫌そうに頬を膨らませ、無言でぼくの隣に席を取る彼女。  ぼくは講義の間ずっとチラチラと彼女の様子を窺っていた。純粋に警戒していたのだ。 「先輩、お昼、時間ありますか?」  講義が終わって不機嫌な声音でお誘いいただいて、「ごめんちょっと用事があるから」と言ってそそくさと逃げ出そうとしたところ、背後からチョークスリーパーを決めれて意識を失う寸前、ぼくはようやっと彼女が誰だか思い出した。
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