第1章

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 それ以降、彼女はなぜか会うたびぼくにチョークスリーパーを決めてくる。  未だ彼女の存在を忘却の彼方に追いやったことを怒っているのかもしれない。 「ええ、そりゃあもう、怒ってますよ。」  以前、直接確かめてみたときに彼女はそう答えた。 「なんで忘れるかな。ほんと信じらんない。」  プイッとそっぽを向いて、両手で包むように持ったグラスから、キールロワイヤルをクピクピと飲む。  安居酒屋のカウンター席。ぼくは彼女の横で烏竜茶をあおる。  あれは、サシ飲みをするようになって幾らか経ってから。  多分、5月頃だろうか。 「どうして告白した相手を忘れられますかね?」  ぼくは確かにその二年前、彼女に告白したのだった。  卒業式の日に、もう彼女に会えるのも最後だからと、勇気を振り絞って彼女に告白したのだ。ぼくの告白を聞いて、彼女は手にした円筒をクルクルと弄びながら、恥ずかしげに、くすぐったそうに笑っていた。二年ぶりの再会を果たしたあの講義室で見た彼女の表情とは雲泥の差のある。  決して二年前の彼女が良くて、その二年後の彼女がダメと言いたいのでは無い。  今の彼女もぼくは大いに可愛らしいと思うのである。  例え彼女に、ぼくの関節を決めるタイミングを常に伺っているような緊張感があったとしても。
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