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「どうして私を置き去りにしたの」
そう言って彼女がさめざめ泣いたのは夏祭りのことだった。
ぼくらは二人で花火を見に出かけ、人ごみに揉まれてはぐれてしまった。
繋いでいたはずの手がいつの間にか離れていて、彼女の声は喧騒にかき消されていた。
半刻かかってようやく人混みの中に彼女を見つけて、彼女の元にたどり着いた時、腕をとったぼくにはじめ驚いたような顔を見せ、そして安堵したかと思うと、彼女は静かに泣き出した。
彼女が泣いたのを見たのは、それが初めてだった。
どれだけ謝っても、置き去りにしたわけではないと言っても、「どうして……、どうして……」と繰り返すだけだった。
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