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どのくらい経ったのだろう。
気が付くと雨はすっかり上がり
夕陽が海を薔薇色に染めていた。
「すげぇ…」
太陽がゆっくりと水平線に溶け落ちていく。
俺は身動ぎもせずに見守った。
辺りが闇に包まれ始めても
そこから動くことが出来なかった。
冷たい海風が頬を叩く。
「くしゅん…」
濡れ鼠だった俺の身体はすっかり
冷えきっていた。
『何やってんの、綾斗。風邪引くよ!』
鈴がいたら、きっと俺の髪をタオルで
ガシガシ拭きながら、呆れた顔をする筈だ…
そして屈託なく笑いながら、こう言うだろう。
『ね、いつものカフェでお茶して帰らない?
温かい珈琲飲もうよ』
「だな。帰るか…」
俺は、宵闇に沈んだ海に背を向け歩き出す。
来た時よりも少しだけ軽い足取りで―――――
FIN
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