石像の視線

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石像の視線

 昭和の時代に建てられて、今もたくさんの人が生活している大型団地。  どの建物もそっくりだから、せめてもの目印にとして、棟の端っこにはそれぞれ違う動物の石像が置かれていた。  俺は団地住まいじゃないけれど、家が近くで毎日側を通っているから、子供の頃から動物の像のことは知っている。だからいつからか像の向きが微妙に変わっていることに気がついた。  一つに違和感を覚えると、他の像のおかしさも目につくようになり、休みの日、俺は思い切って像をじっくり見てみることにしてみた。  誰が見てもあからさまにおかしい。そうは思われない程度の微妙さで、少しずつ角度が前と違う気がする像。石像なのに視線がどこかを見ている気がして、向いている方に目をやるり、そちらの辺方向に進むと、そこには他の棟の側に置かれた石像がある。  一つの像が違う像を見ている。見られた像はまた違う像に目を向けている。  それらを一つずつ追いかけて総ての石像を回ったら、最後の像は団地の壁を凝視していた。  年代物の薄汚れた壁。そこにぼんやり人の形をしているような影が浮き上がって見えるのは、像達が何かを見ているなんて考えてしまう俺の気のせいかな。気のせいだったらいいんだけどな…。 石像の視線…完
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