鰐と義眼と赤い河

2/5
前へ
/126ページ
次へ
「ヌマハット着いてもヌマハットのどこかは分からないからな。また聞き込みだ」 「それにしても、やっぱり珍しいな?グリが広告に手こずったのもそうだけど。あの思い出売りがそんな雑な広告出すほど慌てて出るとか」 「危ない思い出の売買でもしたんだろ」 「あぁ…」 「ヴィシュニカは確かに良い街だけど、やくざ者も多いからな。俺らみたいに純粋に求めてる奴もいれば、思い出という名の情報漏洩を恐れて狙う奴もいる。流石に客を選べない商売だから。取引で何かやらかしたんだろ」 「面倒だな」 「…俺も人の事言えねぇけど」 「そうか?グリのは別に狙う理由なんてないだろ」 鳶の言葉に、グリチーアはキュッと藤鼠色の眼を痙攣させて。 「お前はまだ、出くわしてねぇからな」 「ん?何を?」 グリチーアは何も言わず。ただ、車輪の音だけが意味もなく返答した。 ヴィシュニカ駅を十五分早く出た列車は、終点のナンター駅に五分遅れて到着した。 「だからなんでそうなるんだよ!」 既に走り去って行ってしまった二本目の列車の停留所で、グリチーアの叫びが無意味に響く。鳶だけが冷静に時刻表を探していた。 「あの線路を横切ってた家畜で足止めしたのが原因かな」 「それで何で二十分も遅れんだよ?」 「知らねぇよ。次の列車待つしかないだろ?」 「鳶、数字読めるようになっただろ?次何分か見てくれ」 「時刻表どこだ?」 「壁に貼ってあるはずだ」 「これか?【時】って書いてあるやつ」 「それ」 「……乗るはずだった奴が…」 「七時十三分発」 「七がこれで、十三が、これか。で、次が…にじゅう…いち?」 「二十一分発。今、二十分だから、すぐ来るか」 「いや、違う。すまんグリ。二十六。二十六だよな?これ」 鳶の言葉にグリチーアは立ち上がって、鳶が指差す数字を見て。 「二十八!」 「あ、これ二十八か」 「あー…これは混むぞ」 「そうなのか?」 「混むのが嫌で早く出たのに…」 グリチーアの言う通り、八分後にやってきた列車はそれまで乗っていた始発列車とはうって変わってほぼ満席。どの席を見ても獣や人が座っている。 犬、猫、猿、猿、猿、人、犬、猿、猿。 「やっぱ、猿が多いな…」 「まだラマーマだろ?」 「この列車で国境を超えるからな。ヌマハットに戻る奴もいるだろ?」 「どうする?立ってるか?」 「いや、あの席。おっさん一人だし。相席出来ないか聞いてみよう」 グリチーアの指さした席は確かに、四人掛けの席に紳士一人しか座っていない。物は試しと、グリチーアと鳶は席に歩き出した。 「失礼」 「…なにやぁ?」
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加