鰐と義眼と御持成

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「違うな」 「あの風説に飛びついた俺らのせいだ」 結局、他のせいにするよりも己のせいにした方が、行動はずっと早い。 「とにかく宿を見つけないと。グリ、希望あるか?」 「見えねぇから希望も何もねぇよ。どこでもいい」 「判った」 「猿がやってないならどこでもいい」 「その時点で希望だよな?」 だらだらと通りを歩き。鳶は赤い屋根の建物を探したがどれも猿が働いている。国民の九割が猿なのだから仕方ないといえば仕方ないが。グリチーアも鳶も、痒くもない所に手を伸ばすヌマハットの客応答に辟易しつつあった。 「これをヌマハットの民は当然の事と見做しとるから怖いよな」 「俺らにしてみれば余計なお世話って所があるんだけど」 「ヌマハットの民がラマーマとかに行ってみろ?絶対文句しか言わねぇぞ」 「俺、あれに引いた。釣銭を目の前で数えた姉ちゃん」 「あぁ、あれな」 二日前に鳶が屋台で果実を購入した際、財布に高額紙幣しかなかった為にグリチーアがそれを差し出せば。威勢の良い若猿が釣銭に数枚の紙幣を目の前で手際よく、大声を出して数えたのだった。 「高が金返すのにそこまでやるか?」 「まぁ、釣銭の間違いがないようにって確認の意味がでかいんだろうけど」 「や、あれは演戯入ってた。すっげぇ大げさに札捲ってたし」 「それも客応答…客応答?」 「要らん水出すわ要らん姉ちゃんつけるわ。何かつけないと気が済まねぇのか?」 「そもそも、客応答って、何だろうな?」 「グリは何度か行ってんだろ?」 「今回が二回目。前回行ったのは五年前かな。まぁ、あの時はちょっと丁寧だな程度にしか思わなかったんだけど…地区によって全然違うな」 「俺はもういいかな」 何度と知れない飲食店への客引きを無視しながら暫く通りを歩いていくと、赤い屋根の小さな宿屋を見つけた。赤い屋根は宿屋の証。看板に書かれた文字は読めないが、描かれた獣に鳶には見覚えがあった。 「…グリ」 「ん?見つけたか?赤い屋根だぞ」 「見つけた。で、多分ここ、猿じゃない」 「本当か?」 「ここに決めた。入るぞ」 中に入ると、宿の亭主らしい、若熊猫がグリチーアと鳶を出迎えた。 「いらっしゃい、鰐革の旦那。黒眼鏡の旦那。今日の宿はお決まりで?」 「今日ここに泊まりたいんだけど。部屋ある?」 「えぇ、旦那方も運が良い。ちょうど今。空き部屋が出来た所ですわね」 「じゃあ頼む。あとさ」 「はい?」 「もしかして、親戚がラマーマで宿をやってたりする?」 「…え?うん?」
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