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グリチーアは一瞬何の事かと面食らったが。若熊猫主は顔を輝かせて、
「えぇ、はい!母の従姉の伯父の孫がラマーマのヴィシュニカで!ひょっとして旦那方、ヴィシュニカからいらしたんですかね?」
「まぁな」
「それはへぇ、母の従姉の伯父の孫がお世話になりました。どうぞ此方に。おーい!お客様らて!」
若熊猫主に呼ばれた仔熊が、グリチーアと鳶の鞄を持って。パタパタと階段を昇っていった。
「あぁ!あのおっちゃんの父の弟の従妹の姪の息子?って事はここ、あの熊猫一族の宿か!でかした鳶!」
「やっと判ったのかよ」
「見えねぇからな」
「おや、黒眼鏡の旦那は盲目ですか?」
「や、義眼が外れてな。今だけだ」
「左様ですか。御愁傷様です。そうせ、私が旦那をお運び致しましょう」
「へ?や、ひぇゃぁあああ!」
ひょいと若熊猫主はグリチーアを軽々と横抱きして。
いきなりの浮遊に驚いて思わず主の首に抱き着いたグリチーアに。
「今から十二段の階段を昇りますけね。ちっとだけ揺れますんで、掴まってくだせ」
「え、や、あの、ちょっ」
「ほいっ、いちにぃさんしぃ!」
「待って待って待ってまっ」
「ごぉろくななはぁち!」
「揺れすぎだぁぁあ!」
鳶は普通に階段を昇った。
「鰐革の旦那。こちらのお部屋にお願いします」
既に鞄を運び終えたらしい。廊下にいた仔熊に部屋を案内されて、心付にと衣嚢から取り出した袋から硬貨を仔熊二匹に渡した。
パタパタと去る仔熊を見送って、部屋に入る。
「風呂場はあちらに。お食事は下の酒場でお願いします」
「ん」
「黒眼鏡の旦那はお風呂場です。ごゆっくりお休みください」
若熊猫主が部屋を出ていき、鳶は背広を脱いで衣紋掛にかけて。
袋に入れておいた義眼を取り出して、風呂場の扉を数回叩いた。
「グリチーア」
「おぉ」
「開けるぞ」
風呂場は暗く、窓がない。グリチーアは遮光眼鏡を外したまま眼を瞑って左手を差し出した。
「義眼、掌に乗せてくれ」
「…なぁ、グリ。この義眼についてる、びろびろなんだ?」
「固定弁だ。これで義眼を眼窩の中に固定して、で、義眼の向きを調整するんだよ」
「へぇ…」
「俺の鞄に紅梅色の壜もあるだろ?」
「あぁ、これか」
「蓋空けて置いてくれ」
「これ、中身何?」
「緩滑蜜。これを義眼に絡めて、眼窩の中に入れるんだ」
「いつも眼に入れてる水とは違うのか?」
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