鰐と義眼と御持成

3/7
前へ
/126ページ
次へ
グリチーアは一瞬何の事かと面食らったが。若熊猫主は顔を輝かせて、 「えぇ、はい!母の従姉の伯父の孫がラマーマのヴィシュニカで!ひょっとして旦那方、ヴィシュニカからいらしたんですかね?」 「まぁな」 「それはへぇ、母の従姉の伯父の孫がお世話になりました。どうぞ此方に。おーい!お客様らて!」 若熊猫主に呼ばれた仔熊が、グリチーアと鳶の鞄を持って。パタパタと階段を昇っていった。 「あぁ!あのおっちゃんの父の弟の従妹の姪の息子?って事はここ、あの熊猫一族の宿か!でかした鳶!」 「やっと判ったのかよ」 「見えねぇからな」 「おや、黒眼鏡の旦那は盲目ですか?」 「や、義眼が外れてな。今だけだ」 「左様ですか。御愁傷様です。そうせ、私が旦那をお運び致しましょう」 「へ?や、ひぇゃぁあああ!」 ひょいと若熊猫主はグリチーアを軽々と横抱きして。 いきなりの浮遊に驚いて思わず主の首に抱き着いたグリチーアに。 「今から十二段の階段を昇りますけね。ちっとだけ揺れますんで、掴まってくだせ」 「え、や、あの、ちょっ」 「ほいっ、いちにぃさんしぃ!」 「待って待って待ってまっ」 「ごぉろくななはぁち!」 「揺れすぎだぁぁあ!」 鳶は普通に階段を昇った。 「鰐革の旦那。こちらのお部屋にお願いします」 既に鞄を運び終えたらしい。廊下にいた仔熊に部屋を案内されて、心付にと衣嚢から取り出した袋から硬貨を仔熊二匹に渡した。 パタパタと去る仔熊を見送って、部屋に入る。 「風呂場はあちらに。お食事は下の酒場でお願いします」 「ん」 「黒眼鏡の旦那はお風呂場です。ごゆっくりお休みください」 若熊猫主が部屋を出ていき、鳶は背広を脱いで衣紋掛にかけて。 袋に入れておいた義眼を取り出して、風呂場の扉を数回叩いた。 「グリチーア」 「おぉ」 「開けるぞ」 風呂場は暗く、窓がない。グリチーアは遮光眼鏡を外したまま眼を瞑って左手を差し出した。 「義眼、掌に乗せてくれ」 「…なぁ、グリ。この義眼についてる、びろびろなんだ?」 「固定弁だ。これで義眼を眼窩の中に固定して、で、義眼の向きを調整するんだよ」 「へぇ…」 「俺の鞄に紅梅色の壜もあるだろ?」 「あぁ、これか」 「蓋空けて置いてくれ」 「これ、中身何?」 「緩滑蜜。これを義眼に絡めて、眼窩の中に入れるんだ」 「いつも眼に入れてる水とは違うのか?」
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加