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「初めてらて。なぁ!オクさん!どういう知り合いらね?紹介してくんねろっか!」
「そんげん駄目らわや。おれも会ったばっからすけ知り合いもなんもねぇすけ」
「えぇー?」
「おれんとこに新聞買うてきてぁんろも。おれんとこにねぇろ?だっけおめさんとこに連れてきてぁんて。それだけら」
「なぁーにねぇ!へぇ、紹介してぇて!そんげがんでいいすけ!」
「そんげがんてなにやおめぇ。出来ねってんねっか!」
「良いこてぇ!俺人間に会ぅわん夢らったんてぇ!」
「そうせ自分で行きなせや」
「それが出来ねすけ言ってんねっか!」
「バッと行ってバッと声かけてバッと戻るだけでねっか!」
「オクさぁん!一生のお願いらすけ!」
「おーめそれ、割り当て分売れねかったがんにも言ったねっか!」
そんな会話が繰り広げられてるとはつゆとも知らず。何やら言い争う店主と子猿に、グリチーアと鳶はやや不安な心境を隠せずにいた。
「何か揉めてるけど、どうしたんだ?」
「…言い争ってんのは分かるんだけど。全然分からん」
「あの時みたいに、人間なんかに売れるかってなってたらどうする?」
「いや、流石に子猿だからそれはないと思うんだけど…」
やがて子猿に何やら押し切られたのか。店主がやや疲れたような顔をして戻ってきた。
「…お待たせして、すみません」
「こちらこそ。わざわざありがとうございました」
「こちらが、新聞ですわ」
「いくらですか?」
「十四ホスールです」
財布から硬貨を数枚取り出して、店主にチャリリ、と手渡した。
「…あと、」
「はい?」
「ちっとだけ」
店主はグリチーアと鳶を連れて青い看板のある角まで戻っていく。隠れるように角を曲がって。店主は小さな紙切れを、グリチーアに差し出した。
「…これは?」
「気に障ったんなら遠慮なく破いて良いすけ。あの新聞売りの子、テンギ言うんろもへぇ人間見るん初めてらて、黒服のお客さん紹介してくれて聞かねんだわね。流石に初対面の方にそんな事出来ね言ったんろも、これだけでもって、押し切られて」
差し出された紙切れには子猿の連絡先が書かれている。急いで書いたのか、所々字が歪んでいた。
「…そう、ですか」
「はんねすんませんこんな事。あの子、愛嬌はええんろも、良すぎて偶になぁ」
「いえ、構いません」
緩やかに口角を上げて。グリチーアのその笑みに何やら察したのか、店主は深々と頭を下げて。
「新聞買って頂いて、本当に助かりました。ありがとうございます」
「とんでもない」
店主はその場から立ち去って行った。
「で。それ、どうすんの?」
「……」
角からチラッと子猿を見れば。子猿はまた新聞の売り口上を述べながら新聞を売っている。グリチーアは右手にあった紙切れを左手に持ち替えて、
「鳶、燐寸貸して」
「ん」
鳶から受け取った燐寸を片手で点火し、左手にあった紙切れを燃やした。
「…ま、そうなるか」
「新聞買って貰った恩はあるけど、それとは別だし。捨てていいって言われたから。遠慮なくな」
「人間嫌いかと思ったら、そっちだったな」
「そうだな…」
「そんなに珍しいのか?人間って」
「珍しいっていうか…どうだろうな?ただの興味本位だと思う」
「じゃああの子猿は、グリに会って何したかったんだ?」
「…だから、俺じゃねぇんだよ」
「うん?」
灰になってちりちりと道路に舞いお散る紙切れを無感動に見送って。
「とりあえず、茶店に行くか」
「ん」
子猿の方を一度も振り返る事なく、歩き出した。
第四話
鰐と義眼と御持成
了
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