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軽口の応酬を交わしながら、葡萄の房を手に厨房に立ち去った熊猫主を見送り。
「で、鰐革の旦那は何でまた警察に?」
ミケの言葉にギュギュっとグリチーアの藤鼠色の眼が痙攣の様に上下に震えた。
「鳶が裏通りの不良連中と大乱闘やらかして。不良共々おやっさん達にしょっ引かれたんだよ。せっかく人が広告の暗号解いたって時に」
「あれはあいつらが俺の背広を、」
「また解けたんですかい?あの秘密の広告。先々月見た奴もちんぷんかんぷんで、」
「解けたからヌマハット行く事になってんだろ」
グリチーアは椅子に掛けていた外套の内衣嚢から新聞の切れ端を取り出した。それはどこにでもある。どの頁でも必ず目にする、広告だった。
瑪瑙の瘤に腰掛けて
私の静脈瘤は今もなお
私の血潮を堰き止めて
私の声明を塞いでいる
ドクトル・ヘリンニー
そんな詩の一節と赤い靴の絵が載った小さな広告。企業の名称もでたらめで歯牙にもかけず、煙草の箱より一回り大きな広告がグリチーアと鳶の旅の道標になっている。
「今回は靴の広告。かなり急な出立みたいだな。靴に惑わされて時間食っちまった」
「靴関係ないのか?」
「なかった。静脈瘤と血潮だけでヌマハットの国境を流れるハツ河って判るのに、靴の印象が邪魔して瑪瑙の瘤から駱駝に行きつけなかった。こりゃ相当慌てたんだろ」
「駱駝ですかい?」
「ヌマハットの国章だ」
「珍しい。グリが暗号に手こずるとか」
「そう。手こずったんだよ今回は」
「あ、」
「それで色々と惑わされてやっとの思いで暗号解いて何だよこの阿呆みたいな暗号はヘリンニー少しは頭使えって頭ン中あったまりながらもとりあえずは荷造りして鳶が帰ってきたらすぐ出るつもりでいたのに当の鳶君が裏通りで喧嘩してしょっ引かれたから二〇〇ホスールと交換で迎えに来いって兎のおやっさんに呼び出された時の俺の気持ち!」
「はいすいませんでした!」
長々と一息で吐き出されたグリチーアの怒りに鳶は反論する事もなく、何度と数えたか知れない謝罪と拝礼をして。これはしばらく言われ続けるな、と麦酒を口にした。
「ほれ元友達売り。皮剥いてやったぞ」
熊猫主が皮の剥けた葡萄の実を皿に盛りつけて差し出した。
「こいつぁ有難ぇ。やっぱり葡萄はこうでなくっちゃな」
「そう言うのは狐のお前さんだけだよ」
ミケはぽーいと葡萄を口に放り込んで、
「しかし、なかなか見つからないもんなんですね。思い出売りって奴ぁ」
「そういう職業だからな」
「この旅も長いんですかい?」
「丸五年だな」
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