鰐と義眼と広告標

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小声で聞こえたグリチーアの声に、ミケはすりすりと鳶に擦り寄って。 「……だ、旦那ぁ。鰐革のぉ、旦那ぁ?すいやせんでしたぁ。あたしとした事が、旦那の障る事チロロッと言っちまったんですかねぇ?もぉねぇ。この口がね。メッてね。きつく言っときますんで、機嫌戻してくだせぇな。旦那。ほら、麦酒のお代わりどぉです?それとも何か食べますか?あ、菜単見ますかい?これとかどうです旦那。鮫の唐揚げですってよ?こりゃぁ美味そうじゃねぇですか」 「……っこく…ゆ」 「へ?何ですかい?」 「おっちゃん!雑穀粥大盛り追加!」 「あいよぉ!」 厨房から威勢よく聞こえた熊猫主の返答にふぅーと長く息を吐いて。鳶は背広の衣嚢から紙煙草と燐寸を取り出して火を付けた。 「吸い過ぎんなよ」 「一本だけ」 その種族が持つ習性上、喉に負担をかける事は避ける鳶である。一本だけと言う言葉に偽りはないと判断して。グリチーアは財布から一〇〇ホスール紙幣を一枚出して、背中越しに腕を伸ばしてミケに差し出した。 「悪いな。気ぃ遣わせて」 「いや、とんでもねぇ。あたしも迂闊な事を言ったみてぇで。すいやせんでした」 「いつになるか分かんねぇけど。もし、次また会った時は。鳶の前でドスクールの話はしないでくれ。理由も詮索しないでくれると助かる」 「へぇ。肝に銘じまさぁ」 「お待ちどうさま。雑穀粥大盛りです」 雑穀粥大盛りを勢いよく頬張り、 「熱っひゅい!」 と悲鳴を上げた鳶の声に。 酒場の外で金糸雀の貴婦が人知れず卒倒した。 第二話 鰐と義眼と秘密広告 了
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