山百合

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山百合

 居間の襖を開けると、濃厚なゆりとの香りと、その甘い香りとは異質な、だが確実に鼻腔に流れ込むごくごくわずかな香りが、むっとわたしを包んだ。  ひっきりなしに訪れる弔問客からようやく解放されたわたしは、リモコンを押してエアコンのスイッチを入れた。機械の唸り声とともに直ぐに空気に冷たさが混じってくる。便利なもんだ、と首筋に浮いた汗をハンカチで拭うと、布団のかかっていない掘り炬燵のなかに足を入れて暮れなずむ庭を見つめた。    3年前に建てた家は気に入らないところばかりだ。足が届かないせいでむくんでしまうこの掘り炬燵も、古民家風に太い梁を大きく見せた天井も、きれいに樹木が刈り込まれた庭も、錦鯉が優雅に泳ぐ池も何もかも気に入らない。 「なんでこんなもん建てたのよ」 わたしは夫の遺影に向かって毒づく。仏壇の扉は大きく開け放たれ、真新しい位牌が遺影の手前正面に置かれ、側で線香が細い煙を上げている。  床の間には夫が大好きだった山百合がこれでもか、というほどたわわにガラス製の、大きくて真新しい花瓶に活けられて――投げ込まれてというのが正しいかもしれない――むせ返るほど濃厚で甘い香りを放っている。     
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