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「もっと小さい家でよかったのよ、ほんとにあんたはわたしのこと最期までわかってない」
今さっき用意しておいたにごり酒の一升瓶を手荒く真っ逆さまにエイっと振って栓をあけ、深い青が美しい薩摩切子の猪口に注ぐや一気に呷る。甘くてざらりとした液体が喉を焼きながら通り過ぎてゆき、何も入っていない胃の腑に染み渡る。もう一杯呷る、さらに一杯。一杯、一杯、もう一杯。
「うん、いい感じ」
夫が嫌う頬杖をついてみる。夫は無言である。無言でわたしを見下ろしている。
「ねえ、いいこと教えてあげる」
わたしは夫の顔を見据えて微笑んだ。左の眉と左の口の端だけを釣り上げる――ヴィヴィアン・リーに似ている、とよく言われた自慢の表情で、かつてそうしたように――夫に挑戦的に笑ってみせた。
「わたしさあ、あんたのことひとつも好きじゃなかったの」
夫は大真面目な顔のまま、うんともすんとも言わない。
「驚いた? 生真面目でちっとも面白くないし、まるで趣味も合わないし、そのうえ口うるさい。よく我慢したと我ながら思うわよ……残念ねえ、そんな四角い枠の中に入っちゃったら何も言えないでしょ」
わたしは夫に「やめなさい」とよく窘められた、キャラキャラと派手な声で笑った。
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