第21章 彼女の何もかも

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第21章 彼女の何もかも

「んん…、たけち…」 遮光カーテンの隙間から差す微かな朝の光を少し前から薄っすらと意識の中で感じていた。だけど、今日の講義は午後から。どんなに寝坊しても間に合わないことない。そう考えて朝が来たのも知らない振りして、傍らで眠る彼女の身体にそっと寄り添った。と、深く静かに眠っていると思っていたその背中がふと身じろぎして、朧げな声で俺の名前を呼ぶ。しまった、起こしちゃったかな。 「…眠いだろ。まだ寝ていていいよ」 低い声でそっと囁いて、安心させて寝かしつけようと薄いか細い肩を撫でる。この感触、すごく好きだ。 だけど彼女は寝返りを打ち、まだ開ききらない霞んだ目で俺を見上げた。 「あ…、そか。今日学校、お昼から…、でも。せっかく武市とこうして一緒にいるのに。…眠るなんて、勿体ない…」 「そんな。せかせかするほどのことじゃないよ」 目覚めきっていない上手く動かない身体を何とか捩って俺にすり寄ろうとする火宮。俺はちょっと呆れてその背中を撫でて宥めた。 「一緒にいられる時間なんて、まだいくらでもあるから。眠いならゆっくり寝てなよ。ぼうっとした顔してるぞ、目がまだ開ききらない生まれたての仔猫みたいだ」     
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