小銭の男

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レジに並んでいると後ろから三浦がやってきた。 「…1080円でございます」 愛想のない高校生風のバイト店員が値段を言った。 長財布の中身を確認する。人が会計してる時に後ろから話しかけてくる三浦。 「そういえば、俺、あんたの昨日の飲み代立て替えてあんだけど」 はっ!そうだった。すっかり、昨日は恵比寿居酒屋三浦事件があり、頭にきすぎてそんなことは、すぐに忘れてしまった。 「わかったわよ。待ってよ」 ったく、闇金の取り立て屋か! 財布から5千円札を取り出しレジで買い物をした後に、買った物が入ったレジ袋を手首に下げ、レジの少し横に避けてから三浦に訊ねた。 「いくら?」 「4千円」 しまったぁ。 今の買い物で5千円札をだしたから、きっちり3920円しかない。なんてことだろう。 まさに青天のへきれきだ。 そんなに驚くことはないか。いつもなら、財布に小銭がもう少し入っているのに、こんな時に限って小銭がなくなるなんて。 カード払いの世の中だ。カードならあるのに。試しに聞いてみた。 「カード払いできる?」 「は? できると思うわけ? さっきの買い物をカード払いにしてもらえよ。さもなくば、なんか一個返品しろよ」 「やだよ。そんなの……」 レジにいる愛想のない店員は、私達の話が聞こえたのか露骨に嫌そうな表情を見せた。
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