黄色いゼラニウムの前日

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黄色いゼラニウムの前日

朝起きて、私は鏡を見る。 相も変わらぬ滑稽な姿は、とうの昔に見飽きているが、それでも私は植えつけられたように、鏡と向き合う。 昨日までの私と変わらぬ容姿が、時に溜飲が下がり、時に恨めしく思った。 鏡の中の私は昨日の私。鏡の前の私は今日の私。 そうであればいいなと思った回数は、両手の指では2進数に頼っても数えられない。 昨日の私の口が動いた。    おはよう。昨日は良く眠れたかい? 昨日の私なら知ってるくせに、まるでままごとのように問う私は、今日に何を求め、何のために生きるのだろう。 大きく息を吸って、深く吐く。一日の始まりは倦怠感が著しく、叶うことなら一日中寝床に伏せることすら後生だと乞いたい。しかし…     いってらっしゃい。 いってきます。 たとえ理由など見つからなくとも、私は今日を生きており、ここまで永らえたことに意味はなくとも、おそらく明日も生きることになるだろう。 ならば、今日生きたことをずっと覚えて居続けて、明日笑える努力をしよう。 ずっと昔に誓ったことを、優しい『人間』になろうと思ったことを、いつか叶えるために。 _________________________某年6月20日  土曜日 あじさいの咲いた日
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