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美しい庭だ。
カウンターに座る宝生将生はいつものように、コーヒーサイフォンの音を聞きながら、店の外を眺めていた。
どの季節のどんな時刻でも、この庭には、ひとつふたつは花が咲いている。
そのように計算されているようだった。
まあ、花のない緑の木々も美しいが、と思いながら、将生が眺めていると、
「そんなに庭が好きなら、窓際の席に座ればいいのに」
と横から子どもの声がした。
大橋龍哉だ。
小学生だというのに、端正な顔と落ち着き払った性格をしたこの子どもを見ていると、いい男っていうのは、子どもの頃からいい男なんだな、とつくづく思う。
そういえば、今日は日曜だったな、とアイスコーヒーを飲みながら、横で歴史の本を読んでいる龍哉を眺めていると、
「琳さん、宝生さん、窓際の席にかわりたいって」
と勝手に龍哉が琳に言う。
「えっ?
ああ、空いてますよ、今なら」
とサイフォンを真剣に見つめていた、この店の若い女性店主、雨宮琳が顔を上げた。
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