後輩の彼は先輩でした。

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後輩の彼は先輩でした。

 「先輩、おはようございます」  声の主は、同じ学生の椎名伊織だった。律より二か月ほど遅くここでバイトを始めた伊織君は律のことを先輩と呼んでいる。  「おはよ、伊織君」  伊織は整った顔立ちをしており、その上、身長も高い。綺麗な黒髪は清楚さを感じさせる。声をあげてはしゃぐというよりは物静かな感じで、大人っぽい。  だが、そんな彼には驚くべきギャップがある。  『ガッシャァァン?』  キッチンからフロアにまで響いてくる大きな音。 キッチンに駆けつけてみれば、予想通りの光景が広がっていた。 割れた食器と青ざめる伊織。  これが、伊織の意外なギャップ。  椎名伊織はクールで大人びた感じだが、実のところはそそっかしく、ちょっぴり天然な青年だった。   「伊織君、怪我はない?」  「あ、はい。大丈夫です。でも、またやっちゃいました……」  「私も一緒に謝ってあげるから! 元気出して! ね?」  本気で落ち込む伊織。  それも無理はない。バイトを始めて、結構経つにも関わらず、毎回、一枚は食器を割ってしまっているのだから。  そんな青ざめたドジっ子を何とか励まそうと律は優しく声をかける。
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