21人が本棚に入れています
本棚に追加
7月のある日曜日。ぼくはお小遣いを握りしめて、商店街の駄菓子屋に来ていた。
まだ小学校3年生のぼくにとって、駄菓子を買うのはいつも真剣勝負だ。
よし。しばらく悩んでから、10円のお菓子と30円のお菓子を1つずつ手にすると、それをカウンターの中に居る、とみばぁに持っていく。
とみばぁは、昔からずっとここで駄菓子屋をやっているらしく、しわしわのおばあちゃんなんだけど、いつも無表情でちょっと恐い。
「とみばぁ」
「43円だよ」
ぼくが呼ぶと、にこりともせずにそれだけ返ってきた。やっぱりちょっと恐い。
ぼくはお金をとみばぁに渡して、駄菓子を握りしめてお店を出ようとした。そのときだった。
「お待ち」
いつも無言で見送るとみばぁが、珍しく声をかけてきた。
くるっと振り返って、とみばぁを見ると、とみばぁは小さな紙をぼくに渡した。
「とみばぁ、これなに?」
「商店街で福引きやってるんだと。それで1回引けるから、引いておいで」
紙を見ると、小さな黄色の紙に、福引券、とだけ書いてある。
「福引きって、どこでやってるの?」
「店を出りゃわかる」
そう短く答えると、とみばぁはぼくから視線を外した。もう話す気は無いらしいな、と思い、ありがとうと小さく言って、ぼくはお店を出た。
最初のコメントを投稿しよう!